『ここはすべての夜明けまえ』間宮改衣著、2024年。
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SFというジャンルが好きで、よく読む私ですが、所謂古典ファンという部類ではなく、最近出されたものが好みです。
特にこの作品にも顕著なのですが、新しい作品は(競合が多いからかもしれませんね)科学ギミックにもストーリー展開にも、昨今の世の中の関心事が(良い意味で)詰め込まれていて、飽きさせないというのがあります。
この作品は、科学技術によって、不老不死に近い身体を手に入れた女性が書いた家族史、という内容になっています。
家族史と言葉だけ聞くとハートフルな印象を受けますが、やはりSF(一筋縄でいかないジャンル)というだけあり、なかなかに痛ましい展開です。
主人公は実の父から虐待を受けており、不老不死の手術も、半ば父に押し切られるように受けた。父はやがて意欲をなくしてこの世を去るが、父から支配的な扱いを受けて、自分の意思を持てずにいた主人公はその先の長い生を、どのように過ごしていくのか? というのがざっくりとした内容でした。
やがて主人公は、自分を好きになった甥っ子(年の差はありますが、主人公は年を取らないので)と恋人同士になり、彼の献身のもとで、田舎の生家で、それなりに穏やかな時間を過ごすことになります。
作中に書かれるように、それが事実のすべてですが、終盤、主人公が彼との半生を振り返り、「甥っ子は自分を愛して献身的に尽くすことで、あったかもしれない幸せを失ったのではないか?」と疑問を持つ流れに。
むしろそれは、虐待によって、普通の人間らしさを持てずにいた自分が、彼から愛情を「搾取」したことになるのではないか。
この主人公の振り返りが、物語の肝でした。
自分らしく生きるとは。愛するとは。
自我を持てない人間は、「ひとを愛する」ことが出来るのか。
誰かに支配され、押し付けられた人生というものは、さらに他人のことも奪うようになるのだろうか。
だとしたら、どうあろうとするのが、人間として生きるということか。
私にとって、とても身に迫るようなテーマでした。
私は何度か言及したように重い障害があり、暴力に遭ってきた半生だったというのも同じです。
そんな私は、曲がりなりにも結婚をし、子供にも恵まれて生活できている。
でも、私のパートナーにとって、私という伴侶はどのように映っているのだろうか?
本の主人公のように、彼の献身を一身に受け、それを良しとしていた自分も(過去には)間違いなくいたと思います。
自分のアイデンティティだとか、生き方に直に訴えてくるような作品との出会いというのは、良いですね。
つらく感じることもあれど、向き合うきっかけになるな、と思います。
今回のように、面白い本を読んだら、書評を書こうと思っています。またよろしくお願いいたします。